溶けた錫を、自分の手で器にする
高岡・能作の工房で過ごす半日
富山県高岡市。四百年続く鋳物の町に、工場そのものを訪ねることのできる場所があります。1916年創業の鋳物メーカー、株式会社能作です。

壁一面の棚に、これまでにつくられてきた製品が並ぶ
四百年の産地
高岡の鋳物は、1609年に加賀藩二代藩主・前田利長が城下に鋳物師を招いたことに始まります。仏具、梵鐘、花器。銅を扱う技術が家業として受け継がれ、産地が形づくられてきました。鋳物師が住んだ金屋町には、千本格子の家並みと石畳がいまも残っています。能作もそのひとつで、長いあいだ仏具や茶道具をつくってきた会社です。
転機は錫でした。錫は金属としては柔らかく、指の力で曲がります。強度を求める道具には向きませんが、能作はその柔らかさを製品の性格として引き受けました。編み目状の器「KAGO」は、平らな状態から手で広げて、花器にも菓子器にもなります。使う人が形を決める器という考え方が受け入れられ、いまでは錫のテーブルウェアが会社の顔になっています。
錫は古くから酒器や茶器に使われてきた金属です。錆びにくく、熱がよく伝わる。冷やした酒器に注げば温度が長く保たれ、口をつけたときの当たりもやわらかい。素材そのものが持つ性質が、そのまま使い心地になります。
2017年に建てられた本社は、工場と直営店、カフェ、体験工房をひとつ屋根の下に収めています。玄関を入ると、天井から無数の木型が吊り下がった吹き抜けが現れます。鋳物をつくるための道具が、そのまま迎えの意匠になっている。奥へ進むほど、売り場と工場の境目が曖昧になっていきます。

工場で使われてきた木型が下がる、本社の吹き抜け
砂で型をつくる
体験工房で行うのは、生型鋳造と呼ばれる方法です。砂を突き固めて鋳型をつくり、そこへ溶かした金属を流し込む。数十メートル先の工場で行われていることと、原理は変わりません。
作業は、木型を置いてその上に砂をかぶせるところから始まります。棒で突いて締めていく。力が足りなければ砂は崩れ、入れすぎれば金属が回らない。スタッフが手元を見ながら、加減を言葉にしてくれます。

体験工房「NOUSAKU LAB」。ひとりに一つ、型枠が用意される

砂を突いて締める。ここでの手加減が仕上がりを決める
砂が締まったら型枠を返し、木型をゆっくり抜きます。砂のなかに、器の形をした空洞が残る。そこへ湯を通す道を彫れば、鋳型は完成です。使われた砂は工場でも同じように何度も戻して使われると聞きました。

木型を抜いたあとの砂型。この窪みが器になる
錫を流す
錫の融点はおよそ230度で、鉄や銅よりもずっと低い。卓上の炉で溶かした金属を、スタッフが柄杓ですくって鋳型に注ぎます。銀色の液体が小さな穴に吸い込まれていく音は、想像していたよりも静かでした。

溶けた錫を鋳型に流し込む。固まるまでは数分
冷めた砂を崩して取り出した器は、表面がざらつき、縁にはバリが残っています。ここから先は削る作業です。研磨機に当て、ヤスリで整え、布で磨く。柔らかい金属なので、削りすぎれば形が変わってしまう。手のなかで少しずつ表情を決めていくこの時間が、体験でいちばん長い部分かもしれません。

研磨機で縁を整える。錫は柔らかく、力の入れどころが難しい。
最後に刻印を打ちます。文字を一つずつ金槌で叩き込む。名前を入れる人もいれば、日付を選ぶ人もいます。同じ木型から生まれた器でも、砂の締まり方と削り方の違いで、表面の景色は一つずつ変わります。仕上がった器は、その日のうちに持ち帰れます。

完成した錫の器。同じ型でも表面の景色は一つずつ違う
つくるところを、見る
体験の前後には工場見学もできます。ガイドが案内する30分ほどのコースで、砂型づくりから鋳込み、仕上げまでを職人の作業とともにたどります。炉の前は夏でなくとも暑く、砂の匂いがする。見学は無料です。
ギャラリーは自由に見ることができ、併設のカフェでは自社の錫器や真鍮器で食事が供されます。売り場では、体験でつくったものと同じ形の器が、職人の手による仕上げで並んでいます。自分の器と見比べると、削りの精度の差がはっきりわかります。
つくるところを見て、自分でもつくり、その器で食べる。産地を訪ねるという行為が、半日のうちに一度きりの体験として完結します。高岡には国宝の瑞龍寺や、鋳物師町の面影を残す金屋町があり、一日を組み立てるには十分な材料が揃っています。
訪ねる
株式会社 能作
富山県高岡市オフィスパーク1
新高岡駅から車で約10分、高岡駅から車で約20分。金沢駅からは北陸新幹線で新高岡駅まで約15分。
工場見学は無料、所要約30分。鋳物製作体験は90分と30分のコースがあり、ぐい呑み、小鉢、小皿、箸置などから選べます。いずれも予約制。料金と開催時間は公式サイトで確認できます。日曜・祝日は休業。
